わたしたちが考える「郊外のすゝめ」

小泉誠(Koizumi Studio | 家具デザイナー)

都心でも地方でもない、郊外だからできること

いろんな地域の人と仕事をしているので、地域にこだわりがあるデザイナーのように見えるようですが、自分としてはある個人と仕事をしている感覚なんですよ。
たまたまその人の特色を活かそうと考えたときに、その人の地域性が出てきたり、その人の周りに影響することが、結局は地域を活かすことになっているのかもしれません。
こいずみ道具店も、国立にこだわってこの場所を選んだわけではないんですけど、この場所で発信していることで、全国の地域の人から僕が感じたエネルギーを、この地域に伝えていけたらいいなと思います。

僕自身の生まれは都心です。
30年近く前、たまたま公団に当たったのが、国立に来たきっかけ。
たまたまでしたが、こっちに引っ越したら、都心の見方が変わりました。
俯瞰で見ることができるようになった、というか。
都心は情報量がものすごいですよね。
いろんな情報を価値として感じる仕事で、すごい量の情報にいつも接していると疲れてしまいます。
こっちは距離がある分、情報を制限できるのがラクです。
家も仕事場に近いし、両親も気に入って引っ越してきて、生活と仕事が一緒になったのもいいですね。

郊外だからつながる

さて、郊外にいると、郊外にいる者同士が出会う、ということがあります。
たとえば、今回のOZONEイベントで一緒に展示を行う東村山の工務店、相羽建設もそうでした。
2015年に会社の拠点に複数のモデルハウスを建て、一部を地域の人が集まれるスペースにし、その全体を「つむじ」という名前で呼んでいます。
つむじモデルハウスの一つ、インフィルデザインを担当した「3階建て木造ドミノ住宅」は、大きな空間を活かして、住まいを地域に開く暮らしができるようになっています。
すでに地域の人がマルシェや料理教室などを開催していて、ここで教室を体験することが企業に結び付くかもしれません。
そしてもう一つが、車1台分のスペースに設計した、小さな建物「舎庫(しゃこ)」。
子どもができて郊外に戻ってきた人が、家で仕事をすることを想定しています。
床面積10平米以下なので、申請なしで建てられ、価格も200万円台。
駐車場は道に面しているので、「舎庫」で路面店がつくれます。
つむじのプロジェクトをやっていくうちに、工務店には「地域の人の信用を得る」ということが何より大事だとわかってきました。
工務店にビジネスの支援はできなくても、その人のやりたいビジネスにふさわしい環境をつくることはできます。
つむじでの体験を重ねていくうちに、「この人たちなら」と、安心して頼めるようになっていく。
人のつながりが残っている郊外では、工務店が地域の人とそういう信頼関係になったら、そこから新しい何かにつながる可能性がありそうです。

郊外にもっと大工を

今、日本の手仕事はどれも跡継ぎに困っていますが、工務店の家を建てる大工さんも同じです。
昔と違って、手仕事の見せ場やユーザーと顔を合わせる機会も少なく、多くの職人さんが「仕事に誇りを持てなくなった」とよく言います。
使っている人に「ありがとう」「いい仕事をしてくれたね」とほめられ、誇りを感じる機会が増えたら、違ってくるように思います。
そんな思いがあって、職人、デザイナー、工務店の協働で良いものをつくるために集まる場「わざわ座」という活動の第一弾として、僕がデザインした家具を大工さんにつくってもらうことを始めました。
名前は、「大工の手」といいます。
デザインは、使いやすさだけでなく、家づくりにかかわる誠実な素材や大工さんの技術を活かすことを考えました。
家具なら技術が目に見える形になり、ユーザーは「○○棟梁がつくった家具だから、大事にしよう」という気持ちが生まれ、家も大切にします。
「大工の手」が広がって、「現代の民芸運動」として大きなムーヴメントになり、みんなが手仕事を身近に感じるようになるのが理想。
23区外の第一次産業が頑張っているように、郊外の手仕事が運動のきっかけをつくっていければと思います。

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小泉 誠(Koizumi Studio)
原兆英と原成光に師事。1990年Koizumi Studio設立。2003年デザインを伝える場として、「こいずみ道具店」を設立。建築から箸置きまで生活に関わる全てのデザインに関わり、全国の地域と協働を続ける。05年より武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。06年JCDデザインアワード金賞、12年毎日デザイン賞ほか受賞多数。著書『デザインの素』(ラトルズ発行)、『と/to』(TOTO出版)。

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